短歌

人間失格

高熱が続くようならただの風邪ではなくて恋かもしれません「犯人はこのなかにいる!」探偵がそう叫んだら次週へ続く人間として生まれて、すみませんまだ生きてます失格のまま

番号

番号で呼ばれて明日にはそれは知らない人の番号になる 番号の表示ボードが故障して声で呼ばれるおなじ番号 赤い羽根共同募金にご協力お願いします火星に水が

鰯雲

鰯雲そろそろちゃんとした写真撮っておこうと考えている

バス停2

Twitterで怒ってるときは怒ってる顔をしているとはかぎらないその列の先頭に立つバス停は黙黙とくるバスを見送る

バス停

行くときと帰るときではバス停の位置が離れた場所に立ってる病院の同意書に署名求められハンドルネーム書きそうになるたい焼きの匂いがバスに乗り込んで団地の前で降りる夕ぐれ

裏手

上履きと土足が交差する位置でわたり廊下は 2 分休符する かつて義母がお世話になった病院の裏手を抜けて通う図書館 この先をまっすぐ行ったつきあたり左折してすぐ冬がきますよ

キンモクセイ

金木犀たとえばそれはオレンジの涙であって夜通し泣いた キンモクセイ未練がましく思うけどまだこの町を離れられない

天国

ほんとうに天国なんてあるのかな椋鳥は一斉に飛び立つ

この坂を下れば海に出るという坂を上って凪を見渡す

秋彼岸

これでまた半年ひとの影差さぬ墓にも雪が降りますように

コンビニ

コンビニへふらり出かける装いのまま君と一緒に家族になった

未明

明日未明なにからとかぎらないけど地球を守る会議あります

メディチ家の人々

メディチ家のシュークリームはふわふわで潰れてしまいそうな自意識

咲く場所

咲く場所を忘れずに咲く曼珠沙華ふくらみすぎたパンはひしゃげる

明かり取り

明かり取り窓から昼は陽のひかり夜は月光ごくたまにねこ

雨雲

ほらあれが雨雲だよと指さして君と語らう宇宙ステーション

秋彼岸ひんやりとする朝もあるうすい鎧のパーカー羽織って 革命はくしゃみのうちに起こりかつ日常にまき散らされてゆく

丸皿

丸皿から頭と尻尾はみ出した秋刀魚ずらして身をほぐしおり

北緯

なんとなくだけどこのまま扇風機おなじ北緯で越冬しそう

サンドイッチ

ぬれそぼつ(ポスト)に語りかけたとて声は届かずただ雨は降る吹き替えか字幕にするかケンカしてでもほんとうはそこじゃないとこ三角のサンドイッチは挟まれた具材が見えるように立ててある

声失う

お悔やみを申し上げますこの夏に死んでいかれたすべてのせみへ真夜中の駐輪場がくりかえし料金不足をいいたてている約束の地を求め歩きつづける難民のすがた声失う

夕焼けチャイム

母さんの叱る声して子が泣いて夕焼けチャイム空に滲んだ

美術室

美術室の声奪われた彫像のごとく誰とも口をきかない自転車で夜の坂道下るとき信号機の赤 上弦の月マヨネーズ逆さまに立て乱暴に引く椅子の脚ハンマースホイ暗転のあとは静かな冬の夜 書割の月にも雪は降る

サイモンとガーファンクル

サイモンとガーファンクルを聴きながらししとう甘く夜露に濡れて弟が生まれたという産院の前通るとき足早になる換気扇ないキッチンで秋刀魚焼く匂いと秋風出入りする窓

ドライカレー

きっとふつうのカレーに飽きた人がドライカレーを作ったのだろう 泣いている自分をどこか醒めた目で見ている自分を撃ってしまいたいと考えているもうひとりの醒めた自分で

二百十日

二百十日よけいなことを言いすぎて世間を狭くしてばかりいる内心は忸怩たるものあるけれど身から出た錆 干しいもを噛む

小さい秋

ホームから改札が見え君が見え小さな駅舎のある町に住む右曲がりますと言い左へ曲がるバス運転手の見つけた秋

透明

透明なビニール傘を打つ雨も透明なのにどちらも見える

天使

この町のどこか天使は住んでいて燃えないゴミを分別してる

いい声の人はたとえば贅沢にバターを使ったオムレツのよう

ピオーネ

ただの黒いかたまりだったピオーネが供されてより光沢帯びる

テレビ小説

録りためたテレビ小説見るように子育てをしてどこかで追いつく

ロケット

ロケットが飛んだ翌朝 盆踊りのやぐらひっそり解体される弟の眼鏡の弦が細いのはきっと僕への当てつけなのだ打刻したタイムカードを中空で二三度振ってラックに戻す

死ぬ前に

死ぬ前に食べたいものを言い合ってパピコと言って半分こする夏休み終わり間近の校庭の渡り廊下はとても厳粛おやすみとたったそれだけのことを言う相手もいない夜におやすみ

光さす

雨空のまま夜になり朝がきて光さすごと届くAmazon本日はお日柄もよくパンも焼けあたりに甘い匂いみちてる最期には死ぬことになるそれまではきっと生きてるそんな占い中学の部活が陸上だった子にボルトの走り解説される止まりますボタン押さずに「降ります!…

レモン33個分

まだ君と暮らしはじめる前にいたアパートの窓閉めてきたかな足元にまとわりつきしモンキチョウ君はお義母さんに似てくるね夏風邪に君のキス一粒レモン33個分の愛情

がんばるよ

悪夢でも君といられる夢ならばこのまま逃げずトドと闘う冷凍のサンマ解凍されし日で新サンマには見向きもしない青春の数は無限でそのうちのひとつを選び夢膨らます誕生日ケーキは安い苺のでいいから君の風邪をうつしてあいにくと井伏鱒二の小説を見るかのよ…

係留

物質となった私が幽体のわたしをしっかりつなぎとめてる

「短歌の目」8月みなさまの作品感想(その3)

その2より粛々とつづく……さて、「短歌の目」8月の感想もいよいよラスト、その3になります。やはり今回は僕自身が参加してないこともあってか、フェアじゃないなあ、という気持ちをどこかで若干感じつつ、どなたからもいまのところクレームが来てないのをいい…

夕暮れの夏

そばかすの少女のような梨ひとつしのばせ帰る夕暮れの夏宿題のリコーダー吹く音階で顔のうつむき加減が変わる忘れたての記憶ほど奥ゆかしい合併号のジャンプ買う遠慮の塊みたいな夏だけが最後に残って手が出せないどうせ夏の終わりは抜け殻になる蝉の抜け殻…

「短歌の目」8月みなさまの作品感想(その2)

その1より淡々とつづく) その1にも、2にもその3にも共通することですが、みなさまの歌を転載するにあたって、ルビや全角半角の空きにはいちおう注意を払っているつもりですが、すでに注意が足りなかった部分も見つかっています。その分は申し訳ないですがこ…

ラブレター

ラブレターという言葉は死語になり製氷皿は真夜中に鳴る

「短歌の目」8月みなさまの作品感想(その1)

今回は残念ですが僕自身は「短歌の目」8月に参加できませんでした。でもみなさまの歌は洩らさず読み、いつものようにそれぞれ10首のなかからいちばん好きな歌を1首だけ選び、ごく簡単な感想というか好きな理由をメモしていました。それを毎回長くなって自分…

雨音は風呂場の高い天井にひびき瀧のように落ちてくる恨みごとひとつ言わずに大根煮る鍋には小さすぎる落し蓋古書店で偶然見つけし古本もはじめて読めばそれも新刊

夜のパンダ

夢でしか逢えない人に逢えなくて夜のパンダも笹を食(は)んでる寅さんの映画のような夢オチでいいから君に愛を告げたい蛇口から出る水になる夢を見た昏く愚かな旅をしてきた目が醒めるまでが夢なら僕はまだ帰りのバスから降りてもいない現実が夢のなかまで…

終戦記念日

百日紅ダレモカレモが物言わず元いた場所へ帰って行けり 夜も更けて麻雀牌をかきまぜる音こだまする終戦記念日

白桃

白桃のうぶ毛ひいやり撫でさする死んでる人も生きてる人も

流星

流星の降る夜ラジオのDJが僕の好きな歌をかけてくれた

錠剤

錠剤がまたひとつだけ加わって終わりの夏はそっと忍び寄る夕立がびしょ濡れにした夕刊をドライヤーで乾かして読む夕空は薄茜色に焼けパンはミルクチョコレート色に膨れた

残り火

打ち水のバケツの水に手を入れてジュッと花火の残り火の音